秩父夜祭の屋台曳行に欠かせないのが「秩父屋台囃子(やたいばやし)」です。関東地方の祭太鼓の多くが「♪コンチキ ・ チン~」と奏でる優雅な祇園太鼓の調子を下にしています。でも、秩父屋台囃子はそれらとまったく異なる系譜のものです。
主役となる大太鼓は荒々しく勇壮な調子で、その音は聞く人の耳ではなく、腹から響いてきます。大太鼓は独奏の要素が強く、基本的なリズムを保ちつつジャズのように即興でたたく場面もあります。少々話が変わりますが、坂東妻三郎や三船敏郎が主役を演じた映画「無法松の一生」で、主人公の松五郎が「暴れ太鼓」を披露する場面があります。
そして、それを聞いた土地の古老に「おっ、暴れ太鼓じゃ。今じゃ誰も打てんと思っていたのに」と言わせます。しかし・・・秩父屋台囃子を聞いて育った私には、「暴れ太鼓」は実におとなしく聞こえました(笑)。この秩父屋台囃子の音色・調子でなければ、100人が心を合わせて20トンもの屋台を曳行し、急な「だんご坂」を引き上げることはできないのです。著しく体力を使う大太鼓は2~3分おきに交代します。太鼓に詳しい方は、打ち手が替わると「おっ、今度は○○さんだ」と分かるそうです。
次に、地味ですが重要な役割を担うのが小太鼓です。通常「♪トコトコ ♪トコトコ」と2拍子の祭囃子が多い中、秩父のそれは「♪トコトッコ ♪トコトッコ」という4拍子です。この小さな「ッ」の間が入るところに特徴があります。小太鼓はベースとなるリズムですので、これが乱れると屋台囃子全体の調子が狂ってしまいます。通常4人で小太鼓を担当しますが「♪トコトッコ」を4人が一糸乱れずたたき続けるには修練が必要です。(※調子がそろわないことを ” グレる ” といって未熟さを指摘されます)屋台が方向転換するギリ廻しでは、10分間以上もたたき続けることがあります。
そして、なんといっても秩父屋台囃子の最大の特徴は、小太鼓の「玉入れ」という技法です。例えるならピアノの装飾音符のような技法(※「よけい分かりにくいゾ‼」の声)で、他の地方にはないものです。右手(表拍子)と左手(裏拍子)でコロコロと玉を転がすように途切れなく軽やかにたたき、しかも同じリズムは打たないというジャズのセッションのような演奏です。名人による「玉入れ」を聞いていると、心軽やかになり、夢の世界にいざなわれるような気分になります。秩父人(?)はたとえどんなに他の音(騒音)が鳴っていても、この「タララッ」(※ゴメンなさい、文字ではなかなか上手く表現できません)という音を耳にした瞬間「あっ、秩父屋台囃子だ」とわかります。
最後に、曳行される屋台の外からは打ち手の姿は見えません。屋台なら幕の内、笠鉾なら土台の下の狭い空間にいるからです。そのため、座って太鼓をたたく「座位打ち」という、めずらしいスタイルで演奏をします。ですから、観光客に「お囃子はどこで演奏しているのですか?」と不思議がられます。伝承の方法ですが、秩父屋台囃子には楽譜はもちろん口伝さえありません。習得するにはお囃子連に入り、実際に打っている先輩の横でたたいて習得するのです。
うれしいことに、今年は3年ぶりに秩父夜祭が開催されるとのことです。ぜひ、みなさんも ” 生(なま)” で秩父屋台囃子を体感してください。きっと太鼓の響きに感動されることと思います。
【資料借用】上載写真2枚は「秩父屋台囃子振興会」様のHPより借用いたしました。同会様では太鼓体験もできるそうですので、ぜひ、アクセスしてみてください。
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